インタビュー

人事にの変革にとって大切なことは「目的意識」と「情熱」

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株式会社ディー・エヌ・エー
ヒューマンリソース本部
本部長
對馬 誠英 

ネットオークション・スマホゲーム・旅行サイトといったインターネットビジネスから、ヘルスケア事業・次世代物流サービス・プロ野球といった新事業まで、驚くべきスピードで事業を拡大する株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)。

人事の業務においても圧倒的なスピード感が求められていることは想像に難くありません。人事にもスピード感が求められている今、DeNAの行っている事はこれからの時代のモデルケースのひとつと言えるかもしれません。

DeNAで人事業務をおこなうヒューマンリソース本部 對馬氏に人事の果たす本来の役割についてお話を伺いました。對馬氏は昨年のKAIKAカンファレンスでご登壇いただきましたが、次回大会においても企画委員としてご参加していただいています。

人事には「事業感覚」が必要

まず御社の事業についてお聞きします。新たな事業に積極的に進出されていますね?

そうですね。ヘルスケア事業、自動運転を活用した事業、また、インターネット関連ではキュレーションサイトの事業も拡大しています。ヘルスケア事業は遺伝子から始めましたが、今は更に幅広い事業になっています。自動運転については、ヤマト運輸株式会社さんと自動運転を活用した次世代物流サービスの開発で提携をさせていただいています。

 

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今、世の中全体で変化が必要とされていますが、特にインターネット業界はスピードが速い。そのスピードにあわせて事業運営、組織運営していくことが課題です。

御社では、新規事業をスピード感を持って推進するという経営戦略に寄りそう人事―、いわゆる「戦略人事」が不可欠ということですね。「日本企業には、戦略人事が必要である」と言われてから久しいのですが、いまだにそれが言われ続けています。その中でも、DeNAさんは戦略人事に成功している企業だと思いますが、いかがでしょうか。

弊社が充分な人事ができているかというと、 まだまだです。全然できていません。「もっともっとスピードを上げていかないと。」と思っています。

 

日本では「人事」という言葉が使われていますが、「人事」という言葉のイメージが悪いのではないかと思っています。実際に人事がおこなうのは「経営戦略」や「経営企画」だと思っています。「経営」そのものをやるのが本来は「人事」の役割だと思うのですが、日本では、なんとなく「人事」が「管理」や「オペレーション」の業務だと考えられがちです 。

仰るとおり、「管理」の業務になっている場合が多いですね。

経営的な視点を強く持たないと、人事はそういう組織になってしまいがちです。人事がコミットしているもの が何なのかが重要だと思います。

DeNAさんの場合、ヒューマンリソース部がコミットするのは、事業そのものということなのでしょうか?   

そうですね。ですので、事業の成果に一喜一憂しますし、我々が採用した人材が「事業にどのように貢献しているか」を必ず追うようにしています。それで事業がうまくいくのであれば、我々もハッピーだし、評価もされる。成果が出なければ、我々も評価がされない。従って、常に経営状況を考えるということが習慣化されていると思います。

 

弊社の組織には事業部と人事部の橋渡し的な役割を果たす「ビジネスパートナーグループ」というメンバーがいます。人事労務などをおこなうチームと事業部の間にいる10人ぐらいのチームですが、このチームが運営の肝になっています。

 

メンバーは事業部の中でマネージャー経験がある社員なので、事業の感覚をビビッドに持っている。人事の業務をしながらも「事業感覚」を持ち合わせているわけです。そういうメンバーが人事の中にたくさんいますので、スピード感を持ちながら、最適な人事業務 をすることができています。

「人事」自体が変革し続けるために

「事業感覚」を持たないと、人事の業務ができないということでしょうか?

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「事業感覚」がないと、人事の業務は無理だと思いますね。私は人事に異動して4年経つので、既に不安になってきています。もちろん、現場のミーティングに入り込むようにしていますし、経営的な意思決定の現場にも参加していますが、それでも今は自分自身が直接事業に携わっているわけではありませんので、4年前の現場感覚しかない。だから、そろそろ怖くなっています。

 

 

 

 

 

現場感覚を保つために、ビジネスパートナーグループのメンバーも常に入れ替わるようにしています。メンバーが固定化されると、考え方も凝り固まってしまい、スピード感がある人事戦略ができないので、事業部との間で異動をさせています。入れ替えをおこなって、フレッシュな状態を保ち続ける。これは人事部全体でも同じです。

 

現場で活躍するマネージャーと入れ替えて、新しく入ってきたメンバーの意見を取り入れる。「人事自体が変革するしくみ」を自ら取り入れるようにしています。

一方で「人事のプロフェッショナルを時間かけて育てる」という考え方もありますよね。

もちろん、そういう考え方も必要だと思います。人事部門は積み上げが大切で、いろんな事例を過去に経験していることが重要でもありますので、手間がかかる労務案件など専門性が必要な部署ではあると思います。

 

ただ、採用や組織開発、人材育成といった事業に近い部分では、「事業感覚」が重要だと思うので、人事部門のポートフォリオの中で何割かを事業経験者で保つことが必要だと思いますね。

DeNAさんではビジネスパートナーグループがあることによって、そのような人事が可能になっているということでしょうか?

ビジネスパートナーグループの人達は各事業に寄り添っているのですが、彼らが吸い上げてくる情報のスピードと粒度が絶妙なんです。ベストなタイミングで、「経営側、人事側にもシェアされるべき情報」を持ってきます。「新しい新規事業を検討していて、あと2ヶ月ぐらいでこういう人材要望が出てくるから、このような準備をしておこう」と先回りをすることができる。その感覚は事業を経験したものでないとわからないです。事業側でマネジメントの経験があるというのが重要だと思います。

 

人事が事業部に人間関係を作るという意味でも、ビジネスパートナーグループは役立っていると思います。事業に入り込んでないと、異動人材の調整はできないですよね。

いきなり人事の人がきて「人材が欲しい」と言っても、なかなか協力してくれません。関係ができているから、「じゃあ、話を聞こう」となるわけです。そういった人間関係の構築のためにも重要ですね。

DeNAさんは現在も事業を拡大しています。今後、企業の規模を拡大しても、その人事の部分は継続されるのでしょうか?

そこは頑張りたいなと思いますね。今はどの業界でも変化に対応しなければいけない状況になってきていますが、特にインターネット業界のように変化する業界ではスピード感を持った事業運営が必要です。

 

ゆえに、ビジネスを拡大するためには、できるかぎり現在の人事の仕組みを捨てずに維持したいと思っています。でも、それは我々もまだまだこれからという段階です。正直、従業員規模が1万人、2万人の規模になったときに、この体制を維持できるかはわからない。そこはチャレンジです。

人事の変革にとって必要なこととは?

人事も変わらないといけないということが分かっていてもなかなか変革しきれず、苦労されている企業も多いと思います。そういった人事の課題の原因は何だと思われますか?

この何十年間は日本企業の勝ち方が決まっていたので、人事についても仕組み化してしまえば事業が継続することができた。考える必要なくオペーレションだけすればよいというフェイズがあったのは事実だと思います。

年功序列・終身雇用の中で、考える必要がなかった。それが、急に「変化しないといけない。考えろ。」と言われても困ると思います。皆さん、それで困っているのではないでしょうか。

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「事業を成功させるために、会社は存在し、人事も存在する、だから人事の戦略はこうだ」という一本のストーリーを持っていないと、うまくいかないと思います。

人事の方は、日々大量の仕事に追われていると思いますし、とても忙しいと思います。私達の仕事には満点がないし、常にやることがたくさんあるし、スケジュールは勝手に埋まっていく。

他の会社もそうだと思うのですが、人事は会社の中で一番忙しいのではないかというぐらいです。なので、じっくり目的を再確認するために考える時間を意識的に持つようにしないといけないですよね。

目的意識を持つことが人事には必要だということですね?

いろんな障害があっても、それが経営にとって重要であると思うのならば、信念を持って経営層にあたれば、必ず実現するのではないかと思います。

その「本気度」が重要なのではないでしょうか。事業にとって必要なことを人事がおこなっている限り、そこは必ず理解されると思います。大切なのは、目的意識であり、情熱です。

今後の目標を教えていただけますか?

世の中で成長し続けるには、変革し続けないといけないと思っています。そのスピードが足りているとは思っていません。我々自身がもっと速く変えないと、まったく対応しきれないと思っていまして、そういう歯がゆさを毎日感じています。

 

自らが変革するというのは、その経営に対するコミットを、人事が自分たちに対してもおこなうことができるか、ということにかかっていると思います。私はこの会社が好きなので、この会社の良さを維持したまま拡大したいし、世の中に対するインパクトを増やしていきたい。それが目標です。

最後に、今回、KAIKAの企画委員としてご参加いただきましたが、その理由は?

会社の中で人事の責任者として、人事の仕事をしていますが、「日本全体でも適材適所を進めたい」と思っています。こんなに勤勉な人が多い日本が、事業で他の国に負けるということはないと思うんです。今は、何かが間違っている。それは仕組みなのかもしれませんし、他のことなのかもしれません。自分の力をみんなが最大限活かしているかというと、そうではない。日本全体を考えると、人材が埋もれてしまっていると思うんですよ。それが単純に、もったいない。嫌なんです。

 

ひとつの会社の人事という前に、そういう意識があります。だから、日本全体でも適材適所を進めたい。

次回のKAIKAカンファレンスでも、そういった内容を参加者の方にご提供し、皆さんの才能をKAIKAするお手伝いができればと思っています。

 

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